松平 康隆

東京オリンピック2の続きです。

男子バレーボールの監督になった松平は「松平8か年計画」

を挙げました。

そのためには、日本独自のコンビバレーを確立させ、それを大男にやらせる。とスローガンを抱え色々改革を始めました。

始めにフライングレシーブ

当時、ボールを拾う技術は、フットワークだと信じられ、疑うものはいなかった。
ところが、その石のような定説に彼は、自らの選手経験から疑問を持っていた。
そこで科学研究チームを招き、スパイクのスピードを計測した。

強力なデータを手に入れることになった。女子のスパイクしたボールは秒速18m。  それに対し男子は1.5倍も速い28mだったのである。
ではコート上でのボールと人間の関係はどうか。ネットからコートのエンドラインが9m。つまりコート上のボール通過時間は、28分の9秒。
約0.3秒だと分かった。そして人間の全身反応時間もこれと同じ0.3秒。
つまり男子はスパイクされたボールを前に“コートの上で一歩も動けない状態”となることが分かったのである。

女子は男子より遅いから、得意の回転レシーブで間に合ってしまうわけだ。
対策が練られた。
瞬時に全身が時空を移動する“フライング・レシーブ”の発案だった。
「打球の落下予測地点の上、20cmに片腕を鋭く突き入れてボールを受け、次にタ、ターンのリズムで腕立て伏せをすればいいはずだ」

理論は明快だったが、練習を始めるやいなや体育館に破裂音が響いた。
鋭いガシャンという音は、アゴが砕ける音だった。次から次に選手はアゴを割った。

しかし全日本を率いる松平氏はひるまなかった。
最強チームのために、彼は徹底して大型選手を集めた。1964年の東京大会では183.5cm、そして8年後のミュンヘンには191cm。
平均身長で8cmもの大型化を図っていた。
「その大型の選手が160cmの体操選手並に動けたときにフライング・レシーブが完成し、金メダルを掴めるはずだ」

身体調整能力への要求はとびきり高かった。選手全員に後方空中回転と9mの逆立ち歩行を命じた。そしてわずか半年後、
選手全員が逆立ちで課題だった9mどころか50mもの距離を疾走できるようになった。

日本の大砲たちが、攻撃を連発する時に必要だった守備は、背中に翼のある男たちが拾い集める“フライング・レシーブ”だったのである。

次に時間差攻撃

攻撃面においても彼は革命的な秘策を思いつく。
それは大ベストセラーとなっていた松本清張の小説『点と線』を読んだことによるものだった。
『点と線』には2つの死体にまつわるトリックの切り札があった。

慌しく列車や電車が行き交う東京駅。13番線ホームから15番線の『あさかぜ』が見える一日にうちのほんのわずかな時間が、犯罪トリックのキーになっていた。

このキーポイントである一瞬だけ目の前が開ける時空間のくだりを読んだとき、これをコート上のタテの時間空間に置き換えた。
エンドラインの後方で相手コートを見つめる内に、それまで頑丈な一枚岩に思えていた敵のブロックが、消える瞬間を感じたのだという。
「ネット上に東京駅・13番ホームが浮かんだんです」

一度ジャンプした人間は、次に何かしようとするときには、空中に浮かした足の裏を地面に一度着地してからしか、次の動作をすることはできない。
「・・・ということは、先に一度敵をジャンプさせればネット上には、誰もいない空間と時間が生まれる。
その誰もいない間に、ボールを返せばいいんだ」
今や世界中の誰もが知る、おとり選手を使い相手選手の目をくらます『時間差攻撃』(ムービング・ディフェンシャル・アタック)を彼は松本清張の代表作『点と線』から発想した。

次に一人時間差

銀メダルを獲得した1968年のメキシコ五輪後、松平監督は選手たちに「どんなばかげたアイデアでもいい。一人ひとつ、新しい戦法を考えよう」と指示した。
考え続けて悩んでいた11月のある日、日体大の東京・深沢キャンパス(現東京・世田谷キャンパス)体育館での練習でセッターが速攻のトスを上げるタイミングを間違えた。
一瞬跳び損ねた森田氏が、まだ空中にある球を打とうと遅れて跳ぶと、先に跳んだブロッカーは降りていた。

「これ、面白いな」。ここから、後に「移動攻撃」と呼ばれるパターンを含む6種類ほどを20分程度で考え出したという。
後日、松平監督に披露すると「一人時間差」と命名された。

すべての面で新たな方向性へと突き進んだ決断は大輪の花を咲かせた。
ミュンヘン大会の金メダルで8年計画はみごとに完結した。
ゼロから始めた革命が成就したのである。

知恵の限り、体力の限り、努力の限りを尽くして夢をかなえた8年。

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